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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)7837号 判決

原告 株式会社鐘淵伸鉄所

原告(反訴被告) 大島製線株式会社

被告(反訴原告) 東京磨棒鋼工業協同組合

主文

被告は、原告株式会社鐘渕伸鉄所に対して金一五七、一九八円、原告大島製線株式会社に対して金五八、八五七円および右各金員に対する昭和三四年三月二九日以降各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告等のその余の請求および被告(反訴原告)の反訴請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用中本訴について生じた部分はこれを六分し、その一を原告株式会社鐘渕伸鉄所、その二を原告大島製線株式会社その余を被告の各負担とし、反訴について生じた部分は全部被告(反訴原告)の負担とする。

この判決の第一項は、原告株式会社鐘渕伸鉄所が金五万円、原告大島製線株式会社が金二万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告大島製線株式会社(反訴被告、以下単に原告という)および原告株式会社鐘淵伸鉄所

(一)、本訴につき

被告(反訴原告、以下単に被告という)は、原告等に対し、それぞれ、金二〇二、四三〇円およびこれに対する原告株式会社鐘淵伸鉄所(以下単に鐘淵伸鉄所という)に対しては昭和三二年四月一日以降、原告大島製線株式会社(以下単に大島製線という)に対しては昭和三三年四月一日以降各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言を求める。

(二)、反訴につき

反訴請求を棄却する。

二、被告

(一)、本訴につき

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

(二)、反訴につき

原告大島製線株式会社は被告に対し金八一、二二七円およびこれに対する昭和三四年一〇月三一日以降支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は同原告の負担とする。

第二、原告等の主張

一、原告等はいずれも磨棒鋼の製造販売を業とする会社であるが、昭和二五年二月一五日同業者七名を以て、各自金八六万円宛を出資し、中小企業等協同組合法に基き被告組合を設立し、爾来被告組合の組合員となつた。

二、原告鐘淵伸鉄所は昭和三二年三月三一日同大島製線は昭和三三年三月三一日いずれも被告組合の承認を得て被告組合から脱退した。

三、ところで、中小企業等協同組合法(以下協同組合法と略称する)第二〇条第一、二項および被告組合定款第一四条第一項、第二一条第一項によれば、脱退組合員は脱退した事業年度末における被告組合の正味財産から出資口数に応じて持分の払戻しを受けることができるものとされている。しかして、昭和三二年三月三一日における被告組合の正味財産は金六、〇二〇、〇〇〇円であるが、同日現在の被告組合員は七名であり、かつ、各自の出資口数は同額であるから、原告鐘淵伸鉄所が被告から払戻しを受くべき持分は右正味財産の七分の一に当る金八六万円であり、また、昭和三三年三月三一日における被告組合の正味財産は金五、一六〇、〇〇〇円であるが、同日現在の被告組合の組合員は六名であり、かつ各自の出資口数は同額であるから原告大島製線が被告から払戻しを受くべき持分は右正味財産の六分の一に当る金八六万円である。

四、しかるところ、原告鐘淵伸鉄所は昭和三二年一二月二二日金一五一、八〇〇円、昭和三三年七月二日金五〇五、七七〇円合計金六五七、五七〇円を、また、原告大島製線は同年七月二日金五〇五、七七〇円、同年一二月二二日金一五一、八〇〇円合計金六五七、五七〇円を、それぞれ、被告組合から持分の払戻しとして支払いを受けたが、残額二〇二、四三〇円については、いずれもその支払いがない。

五、よつて、原告等は被告に対し、それぞれ、右持分の払戻未払金二〇二、四三〇円およびこれに対する各原告の脱退した日の翌日以降各完済に至るまで、商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、被告の主張並びに原告大島製線に対する反訴請求原因

一、原告等主張の一、二の事実は認める。三の事実中原告等主張当時における被告組合の各正味財産および原告等が払戻しを受くべき持分の額が原告等主張どおりであることは否認し、その余の事実は認める。四の事実中原告等が、それぞれ、その主張の日その主張のような金員の支払いを受けたことは認めるが、その余は争う。

二、元来、被告組合は、組合員を構成分子とする人的社団法人であつて(協同組合法第四条、第五条)、組合員の組合債権者に対する責任はその出資額を限度とする(同法第一〇条第四項)有限責任である点において合資会社の有限責任社員の責任(商法第一五七条)に酷似するから、組合と組合員との内部関係についても、協同組合法に特別の規定があるもの(同法第一〇条ないし第二三条の三)を除き、合資会社とその有限責任社員の内部関係に関する規定を類推適用すべきところ、合資会社の有限責任社員が退社した場合の持分払戻に関しては、合名会社の社員の持分払戻に関する規定が準用され(商法第一四七条)合名会社の社員の持分払戻に関しては民法上の組合の組合員の持分払戻に関する民法第六八一条が準用されているから(商法第六八条)被告組合の持分払戻についても結局民法第六八一条を類推適用すべきこととなる。しかして、脱退は組合の一部解散に外ならないから同条にいわゆる「脱退シタル組合員ト他ノ組合員トノ間ノ計算ハ脱退ノ当時ニオケル組合財産ノ状況ニ従ヒ之ヲ為ス」とは、組合が全部解散をしたならば、残余財産として分配すべきものについて持分の払戻をなす趣旨である。従つて脱退組合員の持分算定の基礎となる正味財産の評価は清算手続に準じてなすべきこととなる。のみならず協同組合法自体の解釈からしても正味財産の評価は清算手続に準じてなすべきである。けだし、協同組合が解散した場合における各組合員の残余財産分配請求権は、同法第一九条第一項第二号が組合が解散した場合には組合員は当然に脱退するものとしている趣旨に鑑みると、清算法人としての組合(同法第六九条、商法第一一九条)に対する持分払戻請求権であると解することができるのであつて、そうだとすれば、脱退組合員の持分払戻請求権と解散の場合の残余財産分配請求権とはその本質を同じくするというべきで、正味財産の評価方法と残余財産の評価方法とを異にする理由がないからである。仮りに、脱退組合員に対する持分払戻に際して正味財産の評価を清算手続に準じてなす必要がないものとすれば、一方において組合債権者を害し、他方において脱退組合員と残留組合員との利益分配の衡平を害するに至るから、右のような見解は到底許されないものといわなければならない。

しかるに、原告等の主張する昭和三二年三月三一日および昭和三三年三月三一日当時における被告組合の正味財産は、いずれも単に出資口数を前提として算定したもので、清算手続に準じてなされた評価方法によつて算出したものではないから、原告等主張の各持分が正当でないことはいうまでもない。

三、そこで、清算手続に準じて評価した場合の原告等の各脱退当時における被告組合の正味財産は、それぞれ別表〈省略〉第一の一、二記載のとおり昭和三二年三月三一日現在金四、七七六、六九三円、昭和三三年三月三一日現在金四、〇五八、〇五七円であつて、これによつて算定すれば、原告鐘淵伸鉄所の脱退当時における持分払戻請求権は金四、七七六、六九三円の七分の一に当る金六八二、三八四円であり、原告大島製線の脱退当時における持分払戻請求権は金四、〇五八、〇五七円の六分の一に当る金六七六、三四三円となるところ、右各金員から原告等が既に支払を受けた金額を控除すれば、被告組合が原告等に対し払戻すべき金額は、原告鐘淵伸鉄所に対し金二四、八一四円、原告大島製線に対し金一八、七七三円にすぎない。

四、ところが、原告大島製線は、昭和三二年一一月以降昭和三三年三月に至るまでの組合会費の納入を怠つているのであるが、被告組合においては、昭和三二年一一月一三日に開催された総会において、同月以降の組合会費を従前の一月金五、〇〇〇円から一月金二万円に値上げする旨の決議をしたので、同原告は組合員として同月以降昭和三三年三月まで一月金二万円の割合による合計金一〇万円の組合会費を被告に支払う義務があり、被告は同原告に対し右同額の債権を有している。そこで、被告は、本訴(昭和三六年三月二〇日の本件口頭弁論期日)において右金一〇万円の債権と同原告が被告に対して有する前記金一八、七七三円の持分払戻債権とをその対等額において相殺の意思表示をする。そうすると、同原告は被告に対し、右の差額金八一、二二七円を支払う義務があるから、被告は同原告に対し右金員およびこれに対する反訴状送達の翌日である昭和三四年一〇月三一日以降完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告の主張に対する原告等の反対主張並びに反訴請求原因に対する原告大島製線の答弁と抗弁

一、脱退の際における組合の正味財産の算定方法並びにこれを前提とする各原告等の脱退当時における被告組合の正味財産および各原告等の持分がそれぞれ被告主張どおりであることはいずれも否認する。仮りに、脱退当時における被告組合の正味財産および原告等の持分が原告等の主張するとおりでなかつたとしても、原告等がそれぞれ脱退した昭和三二年三月三一日および昭和三三年三月三一日当時における被告組合の各貸借対照表によれば、後者の出資金欄には、原告等両名の出資金合計一、七二〇、〇〇〇円を控除した金額が記載されているのであるが、これらの貸借対照表は組合総会において組合監事から監査報告がなされ、かつ、組合員全員により承認可決されているものであつて、このように一旦可決確定した貸借対照表を後日訂正することは、会計学上もまた法律上も許されていないということから、被告組合は脱退当時における原告等の持分が金八六万円であることを確認し、その払戻しを承認したものというべきである。

二、原告大島製線が昭和三二年一一月以降昭和三三年三月まで五ケ月分の組合会費を納入していないことおよび従前の組合費が一月金五、〇〇〇円であつたことは争わないが、被告主張の日その主張のような組合費値上げの決議がなされたことは知らない。仮りに、右のような決議がなされたとしても、総会の開催は予め組合員にその旨の通知をしなければならないのにかかわらず、原告大島製線に対しては、総会開催の通知がなされていないから右の決議は無効である。そうでないとしても、被告は同原告が昭和三二年一〇月二五日被告に脱退の意思表示をして以来組合事務の諸通知はもとより、組合費の請求もせず、事実上脱退組合員として取扱つてきたのであるから従前の一月金五、〇〇〇円の組合会費ならかもかく、原告の全く関知しない一月金二万円の会費につき、しかも脱退後三年を経過した後において、なお債権ありとして請求することは信義誠実の原則に違反し許されないものである。

第五、原告大島製線の抗弁に対する被告の答弁

同原告の右抗弁は否認する。被告主張の総会開催の通知は、予め同原告宛になされていた。

第六、証拠関係〈省略〉

理由

一、原告等が、いずれも磨棒鋼の製造販売を業とする会社であること昭和二五年二月一五日原告等を含む七名の同業者が各自金八六万円を出資して中小企業等協同組合法に基き被告組合を設立したこと、原告鐘渕伸鉄所が昭和三二年三月三一日、同大島製線が昭和三三年三月三一日それぞれ被告組合の承認を得て被告組合を脱退したことは当事者間に争いがない。

二、しかして、中小企業等協同組合法第二〇条第一、二項によれば、組合員が脱退したときは、定款の定めるところにより、その持分の全部または一部の払戻を請求することができ、右の持分は脱退した事業年度の終りにおける組合財産によつて定める旨規定され、成立に争いのない甲第二号証、乙第九号証によれば、被告組合の定款第一四条第一項、第二一条第一項により、組合員が脱退したときはその持分の出資金額を払戻すものとし、組合員の持分は組合の正味財産(未払込出資金額、納税積立金および職員退職給与引当金を除く)につきその出資口数に応じて算定するものとされているところ原告等の各脱退当時における被告組合の正味財産従つて原告等が払戻を受くべき各自の持分の額については各当事者間に争いの存するところである。

おもうに、組合員の脱退とは、組合員の一部が、組合員たる資格を失い、しかも組合が同一性を保持して存続することをいい、脱退組合員に対する持分の払戻しは、組合と脱退組合員間の財産関係の整理として行われるものであつて、この場合における脱退組合員の持分の計算は組合の存続を前提とし、組合員の脱退当時における組合の現有財産につき、積極財産(資産)と消極財産(負債)とを計算して正味財産を確定し、これに基いて持分の払戻しがなされるのであるから、財産の評価も、事業の継続を前提とする営業価格によつて算定するのが相当であると解される。

この点につき被告は、組合員の脱退は、組合の一部解散に外ならないから、組合員脱退の際の組合財産の計算は、清算手続の場合になされる財産の評価方法に準じてなさるべき旨主張するけれども、組合員の脱退が一部解散の性質を有するか否かはともかくとして組合の存続を前提としてなされる組合員脱退の場合の組合財産の整理関係と、組合の終了を前提としてなされる清算の場合の組合財産の整理関係とは、自らその目的を異にし、前者が脱退当時における組合と脱退組合員間の財産関係の清算であるのに対し、後者は解散した組合の財産関係の整理であり、組合財産を以て組合債務を弁済した残りの財産を組合員に分配する手続であるから、脱退の場合の財産の評価を必ず清算の場合の財産の評価によらなければならないと解する必要はないのみならず、協同組合法第一九条第一項第二号の解散は、組合員の解散の場合を指し、組合自体の解散を意味するものでないことは文理上明白であつて、同条を根拠とする被告の主張は採用し難く、また、脱退と清算の以上のような差異から、被告主張の如く、組合員脱退の場合の財産の評価を、清算の場合に準ずる評価方法を以てしなければ、組合債権者を害し、脱退組合員と残留組合員との利益の分配の衡平を害するものともいえないから、いずれにしても、この点についての被告の主張は採用できない。なお、本件において原告等の主張する持分の額が、原告等の脱退当時における貸借対照表に計上された組合出資金の総額を前提としていることは、原告等の主張自体によつて明らかであるが、前示のとおり、脱退組合員の持分の計算は、組合の資産と負債の全部を計算したうえ、組合財産の増減により、出資の割合に応じてなされるもので、単に出資額だけによつて計算すべきものではないから、原告等が、脱退により被告組合に対し金八六万円の払戻請求権を有するという主張は失当である。さらに、原告等は、前記貸借対照表は、決算報告の際組合員全員によつて承認され、後日これを訂正することは、会計学上も、また法律上も許されないから、右貸借対照表が可決確定したことにより被告組合は、原告等に金八六万円の持分の払戻義務があることを承認したものであるという趣旨の主張をするけれども、脱退組合員の持分払戻請求金額の確定と、当該事業年度における組合の決算関係とは、それ自体別個の問題であつて、被告組合の前記貸借対照表が決算期において組合員全員によつて承認されたからといつて、被告組合が原告等に対し原告等主張の金額の持分払戻義務を承認したものとはいえず、他に被告組合が原告等主張のような債務を承認したことを認むべき証拠はないから、原告等の右主張も採用することができない。

三、そこで、以上の見解に則り、原告等がそれぞれ被告組合を脱退したことによつて取得すべき各自の持分払戻請求金額を検討してみるに、原告鐘渕伸鉄所の脱退当時における被告組合の組合員が七名、原告大島製線の脱退当時における組合員が六名であり、名組合員の出資口数が同額であつたことは当事者間に争いがなく、右の事実に成立に争いのない甲第三号証の一、二、乙第一号証の一、二、同第二、三号証、同第四号証の一、二、証人遠藤正嘉(第一回)の証言によつて成立を認める同第七、八号証の各一、二、証人川上金之助同遠藤正嘉(第一回)の各証言(いずれも後記採用しない部分を除く)および鑑定人位野木義行の鑑定の結果を総合すれば、原告鐘渕伸鉄所が被告組合を脱退した昭和三二年三月三一日当時における被告組合の正味財産は金五、七〇三、三七七円で、同原告の持分はその七分の一に当る金八一四、七六八円であり、原告大島製線が脱退した昭和三三年三月三一日当時における被告組合の正味財産は金四、八九八、五六七円で、同原告の持分はその六分の一に当る金八一六、四二七円であることが認定される。

被告は、被告組合の右各正味財産の計算につき、資産のうち中小企業会館出資金(株式)は零と評価すべきであり、また、消極財産中に、それぞれ、被告主張の退職給与引当金および一般管理費立替金を計上すべきである旨主張する。しかしながら、中小企業会館出資金についての主張は、脱退の際の組合財産の計算は準清算主義によるべしという議論を前提とするものであつて採用し難く、退職給与引当金については、このような積立金を正味財産から差引くについてはかかる金員が現実に積立てられていることを要するものと解すべきところ、乙第五、六号証、同第九号証、証人川上金之助、同遠藤正嘉(第一回)の各証言によつても、原告等が脱退した当時右引当金が現実に積立てられていたということを認めるに足りず、他に右事実を肯認するに足る証拠はなく、かえつて、右各証拠によるときは、退職給与引当金が現実に積立られるようになつたのは、原告等が脱退した後である昭和三三年四月以降のことであることが推認され、また、一般管理費立替金については、証人川上金之助、同遠藤正嘉の証言(第一、二回)中被告主張に沿う部分は、前顕甲第三号証の一、二に右のような記載がなされていないことからしてたやすく採用し難く、乙第一〇号証だけでは、右立替金につき被告主張のような事実を確認することができず、他に右のような立替金勘定の存在を肯認すべき証拠はないから、被告の主張はいずれも採用することができず、以上の外原告等の各持分についてさきの認定を覆えすに足る証拠はない。

しかして、原告等が、脱退による持分の払戻として、それぞれ既に金六五七、五七〇円宛の支払いを受けていることは原告等の自認するところであるから、前認定の各自の持分から既に支払を受けた右の金員を差引くと、原告鐘渕伸鉄所の持分の払戻未払額は金一五七、一九八円であり、原告大島製線の払戻未払額は金一五八、八五七円である。

四、そこで、すすんで、被告の原告大島製線に対する相殺の主張について判断する。

同原告が昭和三二年一一月以降昭和三三年三月まで組合会費を納入していないことは同原告の認めるところである。そして成立に争いのない乙第九号証、証人遠藤正嘉の証言(第二回)によりその成立を認める乙第一二号証に、同証人の証言を綜合すれば、被告組合においては、昭和三二年一一月一三日臨時総会を開催し、同月以降従来の賦課金徴収制度を廃止し、代りに、それまで一ケ月金五、〇〇〇円であつた組合会費を同月以降一ケ月金二〇、〇〇〇円に増額して徴収することを決定していることが認められる。同原告は、右組合会費増額の決議は、総会開催の通知が同原告になされていないから無効であると主張し、この点についての立証は、互に不十分ではあるが、前顕乙第八号証の一、二、同第九号証、同第一二号証に前記遠藤証人の証言を綜合して認められる以下の事実、すなわち右決議は、被告組合の組合員六名中同原告を除く五名の同意によつてなされ、同月以降同原告を除く他の組合員は、増額された組合会費を完納しているという事実に徴すれば、右の議決は、一応適法な手続によつて有効に成立したものと推定され、この推定を覆えすに足る証拠はないから、組合員たる同原告は、昭和三三年三月三一日被告組合を脱退するまでは、組合の規制に服し、増額された組合会費を納入する義務があるものというべく、このような組合会費徴収債権の行使が信義則に反するものと断ずべき証拠もない。そうして、同原告の滞納にかかる昭和三二年一一月以降昭和三三年三月まで一月金二万円の割合による五ケ月分合計一〇万円の債務が当時弁済期にあつたことは弁論の全趣旨により明らかであるから、本訴における被告の相殺の意思表示により、原告大島製線が被告に対して有する前記金一五八、八五七円の持分払戻債権は、被告の右金一〇万円の組合会費徴収債権と対等額において相殺され、被告は同原告に対し、その差額金五八、八五七円を支払えば足りることとなる。

五、以上のとおりであるとすれば、被告は原告鐘渕伸鉄所に対し金一五七、一九八円、原告大島製線に対し金五八、八五七円を支払う義務があるというべきであるが、脱退組合員の持分払戻請求権は、脱退によつて期限の定めのない債権となり、脱退の時から直ちに遅滞に陥るものではないと解されるところ、本訴提起前催告をしたことについては原告等の主張立証しないところであるから、遅延損害金については、いずれも、本訴状送達の翌日であることが記録によつて明白である昭和三四年三月二九日以降の分についてのみ請求し得るものといわなければならない。

六、よつて、原告等の本訴請求は、被告に対し、原告鐘渕伸鉄所が金一五七、一九八円、原告大島製線が金五八、八五七円および右各金員に対する昭和三四年三月二九日以降各完済に至るまで商法所定の年六分の割合による金員の支払いを求める限度において正当として認容するが、その余の請求および被告の反訴請求は、いずれも失当として棄却することとし、訴訟費用については、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、本訴につき生じた部分はこれを六分し、その一を原告鐘渕伸鉄所、その二を原告大島製線、その余を被告の各負担とし、反訴につき生じた部分は全部被告の負担とし、なお仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおりに判決する。

(裁判官 下門祥人)

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